近年、早期退職者を募集する企業が増えています。東京商工リサーチの調査によると上場企業の早期退職希望者募集人数は、2019年から3年連続で1万人を超えており、2021年は6月の時点で1万人を超えたことが分かりました。
割増退職金など早期退職優遇措置もあり、定年より早く退職を決める人も少なくありませんが、安易な早期退職は失敗の元です。
今回は早期退職が向いている人や、向いていない人が早期退職した場合の末路などについて解説します。成功するために必要な準備についても解説するので、早期退職を検討している人は、ぜひ最後までご覧ください。
早期退職が向いていない人
通常の定年退職よりも優遇されやすい早期退職制度。退職金が割増されることから、早期退職を検討する人も多いのではないでしょうか。しかしそれだけで決めてしまうと後悔してしまうかもしれません。次に当てはまる人は早期退職を考え直すことをおすすめします。
十分な貯蓄がない人
通常より多く退職金が貰えるとはいえ、現時点で十分な貯蓄がない人はおすすめしません。老後に必要なお金を簡易的ではありますが計算してみました。
例えば55歳で早期退職したとします。2018年時点での日本人の平均寿命は、男性81.25歳、女性が87.32歳です。
そして公益財団法人生命保険文化センターの「生活保障に関する調査(令和元年度)」のデータによると、夫婦二人で老後生活を送るために必要な最低日常生活費の平均額は22.1万円となっています。
85歳まで生きたと仮定して上記のデータを元に計算すると、55歳から85歳までの30年間で必要な金額は約8千万円です。ゆとりのある生活を送りたいとなれば、さらに必要となるでしょう。退職金のみでこの金額を賄うことは難しく、慌てて転職活動しても十分な収入を得られる仕事に就けるかの保証はありません。目先のまとまったお金だけで決めてしまうと、リスクが高いといえるでしょう。
経済的自立と早期リタイアを意味するファイア(FIRE)という考え方が広まっています。ファイアに憧れて退職金を元に投資でお金を稼ごうとする人もいるかもしれません。それも一つの方法ではありますが、投資はリスクも伴います。退職金の多くを投資に回すのだとしたら、やはり生活費としてある程度の貯蓄がなければ難しいでしょう。
やりたいことが明確ではない人
やりたいことが明確ではなく、とりあえず早期退職してから考えようという人もあまりおすすめできません。なんとなく辞めたいという気持ちでは、次にやりたい仕事も定まらず、再就職もスムーズに進みにくいでしょう。
結果、職を転々としたり、年収が大幅に下がったりする可能性が高くなります。そうなれば、仕事に対するモチベーションも下がってしまうでしょう。
早期退職を決断する前に、今の福利厚生や環境を見返してみてください。案外恵まれている環境だったということに気づくかもしれません。有利な条件を提示されたことにより一時的に気持ちが向いてしまったという人も多くいます。
根拠なく楽観的な人
時折根拠なく楽観的な人がいます。若い頃は勢いで行動し成功をつかむという例もありますが、同じような考えでは通用しづらいのが50代以降です。なぜなら企業は長く働いてくれる将来性のある人材を求めています。
そのため50代以降の求人は20代、30代に比べると少なく、未経験では雇ってもらえるチャンスも大幅に減ります。60代を過ぎるとさらに厳しくなるでしょう。経験豊富なシニアだからこそ活躍できる仕事、採用したいという企業もありますが、実力が伴っていないと難しいでしょう。
特に同じ企業で長く経験を積んできた人は、社外でもできると思い込んでしまうことがありますが、残念ながら社内の経験が社外で通用するとは限りません。過大評価は禁物です。
もし自分の市場価値を知りたいのであれば、転職エージェントに登録してみるとよいでしょう。転職のプロが、求められているスキルや人材について教えてくれるので、自分の市場価値を知る指標となります。
早期退職が向いている人
ではどのような人が早期退職に向いているのでしょうか。次のような人は、早期退職後も後悔のない生活が送れる可能性が高いでしょう。
高い専門性や知識を持っている人
高い専門性や知識を持っている人は、早期退職後も成功しやすいといえます。転職も希望の条件が叶う仕事に就ける可能性が高いでしょう。
高齢化で人材不足が深刻な日本では、若手を育てる余裕がない企業も多く、即戦力を求めています。そこで活躍するのが、高いスキルを保有している50代以降のプロ達です。
専門性の高い知識やスキルを持っている人は市場価値が高く、転職でも有利になるでしょう。50代以降も働きたいと考えている人は、今から少しずつでもスキルを磨いておくことをおすすめします。
独立を考えており、計画と準備がしっかりできている人
独立は自分のペースで働けて、制度に左右されることはありませんが、軌道に乗るまでは収入が不安定なこともあります。そのためしっかりとした事業計画やマネープランがない独立は大きなリスクを伴います。
しかし将来的に独立を考えていて、すでに計画や準備を進めてきた人は早期退職者募集を機に独立するのもよいでしょう。退職金というまとまったお金が手に入るので、資金も調達しやすいのではないでしょうか。
早期退職を考えるなら準備するべきこと
では早期退職を成功させるためには、どのような準備をすればよいのでしょうか。ここでは3つのポイントを解説します。
情報を集める
まず情報を集めましょう。早期退職の成功やメリットばかりに目を向けるのではなく、デメリットや失敗について知ることも大切です。何度か触れていますが、割増された退職金の額や、優遇措置だけで決めてしまうと後悔する原因になります。
再就職を考えているのであれば、50代以降の転職の現実についても知っておく必要があるでしょう。目を背けて良いところばかり見ては悲惨な末路を辿りかねません。現実は厳しい部分もありますが、向き合うことで適切な対処を考えられます。
今後の生活費に必要な額をしっかりと把握しておく
早期退職後、働きたいと思ってもすぐに転職できるとは限りません。思いのほか無職の期間が長引いてしまうこともあります。今後の生活費に必要な額を把握し、今の貯金でどのくらい耐えられるかを計算しましょう。
先ほど日常で必要な最低生活費の平均額は22.1万円と解説しましたが、教育費やローンによっても変わります。大学生の子供が複数人いればもっと費用がかかるでしょう。
家族に影響を及ぼす可能性もあるので、家族間の話し合いも大切です。早期退職は一人で決断せず、必ず相談して理解を得るようにしましょう。
早期退職後は苦労が多いと覚悟を決めておく
早期退職後は自由な時間も増えますが、苦労も多いと覚悟を決めておくことも大切です。転職活動は想像以上に気力や体力を使います。50代を過ぎると気力も体力も減ってくるので、思うように進まない時はしんどいと感じることもあるかもしれません。
また決まった転職先でなじめない可能性もあります。あまり悲観的になりすぎる必要はありませんが、ある程度の覚悟は持っておきたいところです。おすすめは考えられるケースと対処法を用意しておくこと。いざという時に備えておくことで、精神的ダメージも少なく乗り越えられるでしょう。
経験やスキルを活かした仕事をするためには?
早期退職後は、さらなるキャリアアップを目指す人も多いと思います。ここでは経験やスキルを活かして仕事をするための求人の探し方や、働き方について解説します。
ハイクラス求人を狙う
経験豊富な50代以降だからこその求人が存在します。いわゆる「ハイクラス求人」と呼ばれる求人です。高い年収で管理職や経営層に近いポストを募集していることが多くありますが、自分の知識を活かして仕事をしたいならばおすすめです。
イチから新しい職種に挑戦するのも良いですが、知識があったとしても未経験の場合は、年収が大幅に下がる可能性も考えられます。しかしハイクラス求人は年収1,000万円以上という条件も多く、転職してもこれまでの年収を維持できる、またはアップする可能性もあります。
シニア向けのハイクラス求人を専門に取り扱う転職エージェントもあるので、年収アップしたいと考えている人は、ハイクラス求人を狙ってみてはいかがでしょうか。
独立を考えているなら実務型顧問がおすすめ
独立を考えている人におすすめの働き方が実務型顧問です。実務型顧問とは自分の専門スキルや知識を活かして企業の経営や事業にアドバイスし、時には実務にも携わります。
スキルを活かしながら自分のペースで働けて、年齢制限もないので生涯現役で働けます。サラリーマンのように安定的な給料はありませんが、多くの企業に貢献するほど報酬が得られるので、頑張り次第で大きく稼げるのも魅力です。
実務型顧問についてもっと知りたいという人は、こちらの記事も参考に。
顧問という役職をご存知ですか?知っておきたい知識を分かりやすく解説!
まとめ
早期退職が向いている人や、向いていない人が早期退職した場合について解説しました。早期退職制度はやりたいことが明確な人や、貯蓄が充分ある人にとってはメリットが大きな制度です。しかし準備ができておらず、目先のまとまったお金だけを見て決めてしまうと、将来的に生活困窮してしまうリスクもあり安易な早期退職はおすすめしません。
早期退職を考えているならば今からスキルを身につけておく、貯蓄を増やすなど備えをしっかりしておきましょう。独立を考えている人は、実務型顧問がおすすめです。これまでの知識を活かしながら自分のペースで働けて、頑張り次第で会社員時代の給料を上回ることも可能です。老後もやりがいある仕事をしたい人は、ぜひ挑戦してみてください。