「定年後に、どこかの企業で役員職に就けないだろうか…。」これは、多くのサラリーマンが一度は夢見ることではないでしょうか。
しかし、実は役員という枠以外に、「顧問」という柔軟な働き方ができる職務があります。
顧問と聞くと、顧問弁護士・顧問税理士など、「士業のプロ」というイメージが思い浮かぶかもしれません。
ただし、近年では普通の会社員だった人が、これまでの自分のキャリアを活かして企業と契約し、安定した年収を得る、「実務型顧問」として活躍するケースが増加しているのです。
そこで、この記事では、顧問の仕事内容や、顧問として働くにはどうしたらいいか、気になる年収についても紹介していきます。
いまや、老後の年金はあてにならないが前提
定年前後に誰もが思い描く、年金。しかし、昨今、寝耳に水として世間を騒がせた、「老後資金2,000万円問題」や、会社員の副業推進なども記憶に新しいところです。
少子高齢化問題が深刻化している日本では、今後、政府による、「老齢年金受給開始年齢は70歳に引き上げる」という発令などない、という保証はどこにもありません。
経験に勝るものはない。頼れる助言者となる外部顧問職
経験に勝るものはない。まさにそのとおりです。一般的な認識としての55~60代のシニア世代の誰もが、その「長い人生経験」という宝を持っています。
顧問にとって、一般社員から部長クラスの管理職、または代表取締役に至るまで、アドバイスが必要とされる範囲は極めて多岐にわたります。
特に、経営者・代表取締役は、社内人事ということを考慮し、内部役員には相談できないことも多々ある、時に孤独な存在です。
そのような際に、まったく第三者、かつ公平性という立場から実務も含め、さまざまな経験を豊富に積んでいて、的確な助言を与えてくれる外部顧問という存在は、とても心強いといえます。
国を挙げての高年齢者雇用対策は、人材ニーズ拡大へ
政府は、いよいよ高年齢者雇用対策に、本腰を入れて取り組み始めました。2002 (平成14)年の、老齢年金支給の開始年齢65歳の引き上げに伴い、高年齢者雇用安定法も改正され、定年後も雇用を継続できる対象者が増えています。
その背景にあるのは、多くの企業が抱える長期的なスパンにおける人手不足、人材確保という課題です。
[1]2020(令和2)年の内閣府調査によれば、60~64 歳の約70%は、何らかの仕事で収入を得ています。また、60歳以上で「今後も収入の伴う仕事をしたい・続けたい」と願う、男性割合は46.9%、女性は34.1%でした。参考出典元:内閣府│令和2年度 第9回高齢者の生活と意識に関する国際比較調査結果 >5.就労(PDF)>P.57図表 2-5-4-2 今後の就労意欲(性別)
[2]また、2019年の内閣府による企業の高齢者雇用に対する意識調査がありました。まずは心身の健康を重視し、高い専門性を持ち、仕事に対する意欲が高い人物は、65歳以上であっても雇用したいという意向が多く、人材市場におけるニーズが高いという結果がでています。参考出典元:内閣府│2019年 多様化する働き方に関する企業の意識調査>労働市場の多様化とその課題
そのニーズ対応にあたり、多くの企業が必要な取り組みとして検討しているのは、週2~3日出勤・短時間労働など、心身に負担をかけない柔軟な働き方です。
[3]さらに、高齢雇用者に対しても能力の高さに応じた賃金を支払うという、前向きな姿勢がうかがえます。参考出典元:内閣府│企業意識調査>企業の高齢者雇用に対する意識>P.186
在職老齢年金で損をしたくない!柔軟な働き方が可能な顧問職
60歳定年後から、再度、会社勤めを始め、週労働時間や年収などの条件によりますが、厚生年金に加入した場合、「在職老齢年金」として扱われます。
老齢基礎年金という1階部分は、収入額に関係はなく減額はありません。しかし、2階部分にあたる60~65歳まで対象者に給付される、「特別支給の厚生年金」も含め現状65歳から支給される老齢厚生年金として、
- 年金受給額
- 月額収入
ふたつを合わせた額が47万円を超えた場合、年金の一部、もしくは全額が支給停止となります。
何十年とコツコツ納付してきた厚生年金なのに、働いたはずの分が差し引かれてしまうなんて…。と、いうことは惜しいか悲しいか、やはり避けたいことです。そのため、十分考慮した年収額に合わせた案件・働き方・勤務時間を選択して調整する必要があります。
ただし、多くの年収をもらったほうが、厚生年金額受給一部停止や全額停止よりも高い金額になる場合は、あえて、それらを受け入れるという選択肢も、もちろんあるでしょう。
なお、何らかの理由で業務遂行に制限が必要になり、収入が減額になった際には、賞与の有無や、タイミングにもよりますが、既定の老齢厚生年金額が給付されます。
そこで、おすすめしたいのが、勤務条件の柔軟さがあり、自分の現役時代のスキルを活かし、充実した定年後を送ることもできる「実務型顧問」職です。
実務型顧問へ転身例から、自分の可能性のヒントを得る
例えば、一般の会社員でも、ある大企業の部署で専門的な仕事のキャリアを積んできた人が、中小企業の同様の専門分野の事業のコンサルティングを請け負う、などが実務型顧問の典型です。
具体例としては、大手電機メーカーに新卒から38年勤務後、定年退職を迎え、その後、物流ベンチャー企業ロジスティクス管理部で、海外事業展開の実務顧問として転身を遂げたケースです。
過去の海外輸出のノウハウを活かし、月4日~5日出勤し進出先の策定や、市場ニーズとサプライチェーンプロセスに合わせた新サービス開発や、現状問題の改善に対する助言や指導にあたっています。
こうした事例は数多く、畑違いとはいえ、これまで自分が積み上げてきたキャリアを、新たなフィールドで、どう活かせるかという視点から見た、幅広い可能性は大きな魅力です。そうした視野で、自分のキャリアを振り返ると、そこに何らかのヒントが思い浮かぶのではないでしょうか。
自分が長年勤務していた会社が大企業か中小企業か、そうしたネームバリューは関係ありません。東大卒でも、何だかやる気がなさそうな猫背の新卒より、有名大学出でもないけれど、専門的な分野の知識や、堂々と胸を張って志望動機を語る第二新卒のほうを、企業は採用したいと考えるのと同じです。
要は、いかに専門的知識と経験を活用し、NDA(機密保持契約)を遵守したうえで、「適切で効果的なアドバイス・助言・コンサルティングができるか?」が問われます。また、顧問として、その「人間性や言動が、信頼され、敬意を払われるか」において、どう評価されるかも重要です。
顧問職に就く最善策は、専門派遣会社への登録
顧問として働くことを決めた場合、具体的な段階としては、当初は顧問専門に特化した派遣会社に登録することですが、その大きなメリットとして、現実的でスピーディな雇用につながりやすいことが挙げられます。
デメリットとしては、派遣会社の市場を利用して職に就いている以上、企業からの報酬総額のなかから、「紹介手数料」を差し引かれた手取り額になってしまうことです。
しかし、派遣出向でスタートした顧問職のキャリアを現場で積み重ね、スキルを磨き、やがては企業と直契約という道も開けたら、報酬額すべてが自分のものになる時がくるでしょう。
顧問の年収相場は、役員待遇常勤・非常勤・派遣登録で異なる
さて、気になるのが、顧問の年収はいったいどのくらいかということです。
[4]2010(平成22)年の産労総合研究所が実施した、アンケート調査結果から、
- 常勤顧問の平均年収は年675万円、月収換算では約66万円
- 非常勤顧問の場合、年収498万円、月収で約41万円
と、いうことがわかります。ただし、以上は、企業役員として勤務し、定年と同時に退任後、同企業でそのまま役員時の待遇を考慮され、雇用契約を結んでいる場合の相場です。
出典参考元:産労総合研究所│役員報酬の実態に関するアンケート調査
顧問職専門派遣会社に登録し、企業出向する場合の年収相場
次に、実際に数社の企業で会社員時代を経て独立後、顧問として活動を開始し、140社以上の企業顧問経験を持つ人の著作本を取り上げてみましょう。
そこには、現在は顧問に特化した、一般財団法人代表者となった、リアルな情報がありました。内容を参考に、以下、顧問専門の派遣会社を利用した場合の報酬額について説明します。
結論から述べると、「会社員の時代より高い年収・所得が可能」ということです。企業が顧問派遣元に支払う顧問総額料は、
- 月に2回の出社
- 平均的な顧問報酬総額相場=月額30~40万円
ということでした。ただし、派遣会社や顧問の内容案件により、その差は大きな開きがあり、一概には言えません。
では、上記の月額30~40万円を基準とした場合、
①顧問として出向する人が得る割合と、
②派遣元の収益となる割合に分割されます。
その①:②の比率が
- A:「5:5」のところもあれば、
- B:「3:7」というところもあります。
- A=顧問手取り額は15~20万円
- B=顧問手取り額は9~12万円
- C:AとBの平均値を算出=12~16万円⇒平均値14万円
という金額が算出されます。
定年後の安定収入を確保したい目的ならば、1企業のみとしても月2回出社で14万円、年収168万円。合わせて、老齢年金受給も前提にすれば、駆け出し時代の条件としてはそう悪くはない、と思えませんか?
派遣登録顧問の年収は働き方次第
しかし、やはり多くの方は、「なんだ、168万円だけなのか…。」と、感じるかもしれません。ただし、これは1企業との契約の場合です。
顧問は複数の企業と契約することが可能ですから、顧問としてのキャリアを積んで、2社、3社、と抱える案件を増やしていけば、いずれは、いくつもの企業をクライアントに抱える顧問職のエキスパートになれる可能性もあります。
例えば、年金受給が全額停止してもいいと決めて、5社と契約した場合、
- D:平均出社日は月10日
- E:取り分が「3」の場合=月収45~60万円
- F:取り分が「5」の場合=月収75~100万円
- G:EとFの平均値を算出=月収60~80万円の平均値は70万円
- H:D×12=年収840万円
です。
さらに、10社と提携した場合、
- I:平均出社日は月20日
- J:取り分が「3」の場合=月収90~120万円
- K:取り分が「5」の場合=月収150~200万円
- L:JとKの平均値を算出=月収120~160万円の平均値は140万円
- M:I×12=年収1,680万円
これが、「会社員の時代より高い年収・所得が可能」という、前述した一般財団法人代表者の著作物にある説明の裏づけです。
ただし、以上に挙げた年収を得るためには、出だしの1歩からが極めて重要。なぜなら、初めて契約がかなった企業で、「顧問として、いかにしてこれまでの自分のキャリアを活かせるか?」が、問われるからです。
求められるニーズに的確な助言で、真摯に誠意をもって対応できるか、それらの実績を積み上げてこそ、最終的に自分が満足できる結果につながるといえるでしょう。
今の仕事を、顧問という専門性にどうつなげるか?を自分に問う
顧問と年収について概要を説明してきましたが、成功者に共通する点は、「すぐ行動する」ことです。
「顧問についてもっと掘り下げる。」
「顧問専門の派遣会社の情報を集める。」
「自分のキャリアを、顧問職にどのように活かせるかを書き出す。」
などを、さっそく実践してみましょう。
また、現役会社員として多様性のある実務に関わっている場合には、重要なことがあります。
それは、「今の仕事を、将来、顧問として働ける専門性にどうつなげるか?」を、常に自問自答することです。 そのように、定年後も安定した収入を得て、活き生きと充実感を持って働く、「将来の自分のイメージ像」を描いて過ごす時を重ねれば、楽しい日々へと変わっていくでしょう。